着服疑惑で呼び出された|その場でやってはいけない3つのこと

懲戒

突然、上司から「会社のお金を着服しているのでは」と呼び出された。

事実関係の確認もないまま、「このままでは解雇になる」とほのめかされた。

そんな状況に置かれて、頭が真っ白になっていませんか。

結論から言います。着服・横領を疑われたとしても、会社が一方的に懲戒解雇を強行することには法律上の壁があります。処分の有効性には厳格な条件があり、状況によっては処分が無効になったり、軽減される可能性があります。

現役の社会保険労務士として、職場の金銭トラブルに関する相談に携わってきた経験をもとに解説します。

  • 懲戒解雇が有効になる法律上の条件
  • 処分の重さを左右する具体的な7つの要素
  • 身に覚えがない場合にやるべきこと・やってはいけないこと

「懲戒解雇」はそう簡単に有効にならない

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懲戒解雇とは、会社が社員に下せる最も重い処分です。

退職金が支払われないケースが多く、転職活動にも大きく影響します。

だからこそ、法律はこの処分に厳しい条件を課しています。

📌 ポイント:懲戒解雇が有効になるには、①就業規則に懲戒事由が明記されていること、②処分の重さが行為の内容に見合っていること(比例原則)、③適正な手続きを踏んでいること、の3条件を満たす必要があります。

会社が「着服だから即解雇」と主張しても、裁判所は行為の内容・程度・状況を総合的に見て判断します。

つまり、「着服の疑い=懲戒解雇が必ず有効」ではないということです。

【実践メモ】

まず会社の就業規則を入手してください。懲戒の条文に「着服・横領」が明記されているかを確認し、自分の行為がその条文に本当に該当するかを冷静に検証することが第一歩です。就業規則は社員が請求すれば会社には開示義務があります(労働基準法第106条)。

処分の重さを左右する「7つの要素」

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着服・横領が事実であったとしても、処分は一律ではありません。

裁判所が懲戒処分の妥当性を判断する際には、行為をめぐる様々な事情が総合的に考慮されます。以下はその主な観点です。

① 金額の大きさ

着服した金額が少ないほど、処分が重すぎると判断される余地が生まれます。

ただし「少額だから必ず軽い処分で済む」わけではありません。

金額よりも、行為の性質が重視されることもあります(詳しくは次の章で解説します)。

② 行為の悪質性と方法

一時的なミスと計画的な行為では、評価がまったく変わります。

長期間・複数回にわたる場合は悪質性が高いと判断されやすくなります。

③ 着服した金銭を返還したかどうか

速やかに返還する姿勢を示すことは、処分を軽減する重要な要素になり得ます。

返還の意思は、反省の態度として評価されることがあります。

④ 会社内での役職・立場

金銭管理を任された責任ある役職者であれば、背信性が高いと判断されます。

一方、現金管理と無縁の業務に従事していた場合は、評価が異なります。

⑤ 業務との関連性

通常業務の中で生じた行為か、業務とは無関係な場面での出来事かで評価が分かれます。

⑥ 過去の処分歴・勤続年数

初めての問題であれば、改善の余地があると見なされることがあります。

長年の勤続実績は、判断材料として考慮される可能性があります。

⑦ 反省の態度と事実の認否

誠実に向き合う姿勢は、処分の量定に影響します。

ただし、身に覚えがない場合は安易に認めてはいけません(後述します)。

✅ やること:事実であれば、早期返還の意思を示すことを検討してください。それだけで懲戒解雇から普通解雇・降格・減給などに処分が切り替わる可能性があります。この段階で専門家に相談すると、選択肢が大幅に広がります。

「少額だから大丈夫」は通じない——判例が示す厳しい現実

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残念ながら、着服額が少額であっても解雇が有効とされた事例は複数あります。

公共交通機関に関わる業務で、受け取った料金の一部を会社へ納めなかった事案(東京地裁・2011年5月)では、ごく少額の金銭であっても解雇が有効と判断されています。

つまり、「たかが少額」という感覚は、裁判所には通用しないということです。

また、顧客から受け取った金銭を会社に届け出ず個人の収入とした事案(東京地裁・2024年10月)でも、解雇が有効と認められています。

金額よりも「会社との信頼関係を壊した」という性質が重く見られた結果です。

⚠️ 注意:「少額だから問題ない」という油断は禁物です。行為の性質・会社への背信行為としての重大性が問われます。状況を整理し、専門家に早めに相談することが重要です。

【実践メモ】

これらの裁判例はいずれも「行為の事実が証明された」ケースです。事実関係が不明確なまま話が進んでいる場合、何を根拠に疑われているのかを確認し、状況の記録を急いでください。証拠がどちらにあるかで、争う余地が変わります。

身に覚えがない場合:絶対にやってはいけないこと

「着服していない。でも会社からそう言われている」という状況は決して珍しくありません。

レジの差異・手続きミス・前任者の記録エラーが「横領」と呼ばれてしまうケースもあります。

こうした場合、次の3つのミスが致命的になります。

やってはいけないこと① その場で認めてしまう

会社側からの強い圧力の中で、「早く終わらせたい」と思って認めてしまう人がいます。

これは絶対に避けてください。

一度認めてしまうと、後から「実は身に覚えがなかった」と主張しても覆すのが非常に難しくなります。

やってはいけないこと② 書類にすぐサインする

「これにサインを」と書類を差し出された場合、内容を十分に理解するまで署名してはいけません。

退職届や事実を認める念書に署名してしまうと、後から取り消すことが極めて困難になります。

やってはいけないこと③ 自分に有利な記録を捨てる

潔白を証明できる可能性のある記録は、すべて保存してください。

シフト表・業務日誌・メール・チャット履歴などが証拠になり得ます。

✅ やること:身に覚えがない場合は、今日から記録を始めてください。「いつ・誰が・何を言ったか」を時系列でメモするだけで、後の交渉力が大きく変わります。記憶は数日で薄れます。今すぐ始めることが重要です。

【実践メモ】

会社との面談は、可能であれば録音することをおすすめします。自分が参加している会話の録音は、一般的に違法とはならないとされています。ただし状況によって判断が異なるため、弁護士・社労士への確認も合わせて行ってください。面談後に「〇月〇日、上司の〇〇さんから◯◯と言われた」と記録する習慣をつけるだけでも大きな備えになります。

よくある疑問 Q&A

Q: 疑われただけで解雇はできるのですか?
A: 「疑い」だけでは解雇できません。会社側は行為の事実を証明する責任を負います。証拠もなく解雇された場合は、不当解雇として争える可能性があります。まず労働基準監督署や弁護士・社労士への相談が有効です。
Q: 懲戒解雇と普通解雇では何が違うのですか?
A: 懲戒解雇は重大な規律違反への制裁として行われる解雇です。退職金が不支給になることが多く、転職活動にも影響します。普通解雇は制裁目的ではなく、労働契約の終了として行われるものです。懲戒解雇が最も重い処分にあたります。
Q: 返還すれば解雇を免れますか?
A: 返還は処分軽減の有力な要素ですが、それだけで解雇を完全に免れる保証はありません。ただし、早期返還と反省の姿勢によって、懲戒解雇が普通解雇や減給などに切り替わる可能性はあります。専門家と一緒に交渉方針を決めることをおすすめします。
Q: 「合意退職」を求められたらどうすればいいですか?
A: 合意退職はあなたが同意して初めて成立します。納得できない条件であれば、署名を拒否することができます。特に退職金の扱いや離職理由の記載内容に注意してください。サインする前に必ず専門家に確認することを強くおすすめします。

チェックリスト

確認項目 チェック
就業規則の懲戒規定を確認した
会社との面談内容をメモ・録音している
身に覚えがない場合、その場で認めていない
署名・捺印を求められた書類の内容を確認した(署名前)
シフト・メール・チャットなど業務記録を保存している
弁護士・社労士への相談を検討している
返還できる場合は早期返還を検討している

すぐやること 3 つ

  1. 記録を始める:いつ・誰に・何を言われたかを今すぐメモしてください。記憶は数日で薄れます。
  2. 就業規則を入手する:会社の懲戒規定を確認し、自分の行為がどの条文に該当するとされているかを把握してください。
  3. 専門家に相談する:弁護士・社労士への相談は早いほど選択肢が増えます。多くの労働相談窓口は無料で利用できます。

まとめ

  • 着服・横領は重大な規律違反であり、懲戒解雇の検討対象になり得る
  • ただし懲戒解雇が有効になるには法律上の条件があり、一方的な強行は許されない
  • 金額・返還の有無・行為の悪質性・反省の態度など複数の要素で処分の重さが決まる
  • 少額であっても解雇が有効とされた判例はあるが、状況次第で争える余地もある
  • 身に覚えがない場合は、その場で認めず、記録を残すことが最優先
  • 署名・捺印は内容をよく確認してから。納得できなければ拒否できる
  • 早めの専門家相談が、あなたの選択肢を守る最大の武器になる

突然の解雇通告は、あなたと家族の生活を一夜にして揺るがします。でも、正しい知識と記録があれば、あなたは必ず「次の一手」を見つけられます。一人で抱え込まず、今日動き出してください。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

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