職場の借金トラブル、懲戒処分になる?労働者の対処法

懲戒

同僚にお金を貸したら返ってこない。あるいは逆に、借りたお金の問題が会社にバレてしまった——そんな状況で不安を抱えていませんか?

結論から言います。職場での借金トラブルをめぐって会社が取れる対応には、法律上、明確な限界があります。

現役の社会保険労務士として、職場の人間関係が絡む金銭問題を数多く見てきました。この記事では、あなたが今知っておくべき権利と、会社が越えてはいけない一線を、わかりやすく解説します。

  • 給与が差し押さえられたとき、会社はどこまで関与できるか
  • 借金を理由に懲戒処分されるかどうかの条件
  • 配置転換命令に対して労働者ができる対応

給与が差し押さえられると、何が起きる?

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裁判所から「債権差押通知」という書類が会社に届くことがあります。

この通知が届いた瞬間、会社はあなたの借金トラブルを知ることになります。

でも、ここで焦る必要はありません。給与のすべてを差し押さえることは、法律で禁止されています。

差し押さえられない金額(差押禁止額)を知っておこう

民事執行法152条によって、給与の4分の3は守られています。

月の手取りが44万円以下なら、4分の3が必ず手元に残ります。たとえば手取り32万円なら、24万円は保護されます。差し押さえられるのは8万円だけです。

手取りが44万円を超える場合は、33万円が保護されます。つまり、どんな状況でも最低限の生活費は守られるということです。

📌 ポイント:手取り給与の4分の3(月44万円超の場合は33万円)は、法律で差し押さえ禁止です。計算が合わない場合は、すぐに確認しましょう。

会社はあなたの借金問題に口出しできない

差押通知を受けた会社は「第三債務者」という立場になります。

つまり、差し押さえ分を債権者へ、残りをあなたへ、それぞれ払う役割を担うだけです。

それ以上のことは、会社にはできません。

「早く返せ」「相手に謝りに行け」などの指示は、会社の権限を超えた行為です。

同僚との金銭問題は、あくまでも個人間の話です。会社が強制的に解決させる権限はありません。

✅ やること:会社から返済を強要されたり、謝罪を迫られたりした場合は、日時・場所・発言内容をすぐにメモしておきましょう。それ自体が問題になり得ます。

【実践メモ】

差押通知が届いた後、会社から面談を求められることがあります。「事実確認のため記録させてください」と伝えるだけで、会社側の発言が慎重になることがあります。可能であれば録音(事前に確認のうえ)しておくと、後の対応に役立ちます。

懲戒処分される可能性はある?その条件を確認しよう

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「クビになるかも」と怖くなっている方も多いと思います。

まず落ち着いてください。借金を理由に懲戒処分をするには、会社側に法的な根拠が必要です。

就業規則に禁止規定がある場合

「従業員間での金銭の貸し借りを禁止する」という規定が就業規則にあることがあります。

この場合、その違反として双方が処分対象になる可能性はあります。

ただし、処分の内容には限界があります。

通常は戒告・減給・出勤停止など、雇用を続けた上での処分にとどまるべきです。

突然の解雇は「重すぎる処分」として無効になりやすいです。

⚠️ 注意:就業規則に「従業員間の金銭貸借禁止」の規定がなければ、借金の事実だけを理由に懲戒処分はできません。まず規則を確認しましょう。

就業規則に禁止規定がない場合

禁止規定がなければ、借金トラブルがあったというだけでは懲戒処分できません。

ただし、例外があります。

職場での立場(上司・先輩など)を使い、相手が断りにくい状況を意図的に作ってお金を借りた場合です。

これは実質的な強要・脅迫に近い行為とみなされる可能性があります。

そのような事情がある場合は、懲戒解雇を含む重い処分が有効と判断されることもあります。

【実践メモ】

懲戒処分の通知を受けたら、必ず書面で受け取りましょう。口頭だけの通知は記録に残りにくいため、「書面でいただけますか」と依頼してください。処分理由と根拠となる就業規則の条文番号を確認し、不当だと感じたら社労士か弁護士に相談することをおすすめします。

配置転換命令が来たら?労働者が知っておく対抗手段

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借金トラブルをきっかけに、突然「部署を変える」「別の拠点に異動」と言われることがあります。

配置転換(配転)命令は、一定の条件を満たせば会社が実施できる場合があります。

でも、何でもできるわけではありません。

配置転換が認められるケース

有効な配転命令には「業務上の必要性」が求められます。

職場の人間関係が悪化して業務に支障が出る、と会社が判断した場合は、その根拠になり得ます。

また、金銭・資産を扱う業務を担当している場合に、その担当から外すような配転は、一定の合理性があるとされる可能性があります。

配置転換が問題になるケース

一方、以下のような配転命令は違法・無効になることがあります。

  • 業務上の必要性がなく、嫌がらせを目的としていると判断できる場合
  • 介護・育児などの家庭の事情を一切考慮しない遠隔地への転勤命令
  • 本人の体調・健康状態を無視した異動

配転命令を受けたときは、「業務上の必要性は何か」を会社に確認することが大切です。

📌 ポイント:2025年4月施行の改正育児・介護休業法により、育児・介護を抱える労働者への転勤配慮義務が強化されました。家庭の事情がある場合は、積極的に会社へ申し出ましょう。

【実践メモ】

配転命令書を受け取ったら、まず就業規則の転勤・配転に関する条項を確認しましょう。業務上の根拠が曖昧な場合や、生活に著しい支障が出る場合は「配転の理由を文書で教えてください」と書面での説明を求めることができます。一人で判断せず、社労士・労働組合・労働局に相談するのがおすすめです。

よくある疑問 Q&A

Q: 会社から「このままでは解雇になる」と言われ、自主退職を迫られています。応じないといけませんか?
A: 応じる必要はありません。退職を強く求める行為は、状況によっては違法な退職強要になります。その場で返答せず「検討します」と伝えて、すぐに社労士か弁護士に相談してください。
Q: 上司の立場を使ってお金を借りた場合、懲戒解雇になりますか?
A: 「断りにくい雰囲気を意図的に作った」と認定される場合、懲戒解雇を含む重い処分も有効とされる可能性があります。具体的な状況による部分が大きいため、専門家への相談をおすすめします。
Q: 就業規則に貸し借り禁止の規定があることを知りませんでした。処分は免れますか?
A: 「知らなかった」は原則として免除理由になりません。ただし、会社が就業規則を従業員に適切に周知していなかった場合は、処分の有効性が争われることがあります。周知の状況を確認しましょう。
Q: 差し押さえ後も手元に残る給与が生活費に足りません。どうしたらいいですか?
A: まず差し押さえ額の計算が正しいか確認してください。法律上の差押禁止額が守られていない場合、異議を申し立てることができます。また、社会福祉協議会の緊急小口資金など公的な貸付制度も活用できます。

チェックリスト

確認項目 チェック
就業規則に「従業員間の金銭貸借禁止」規定があるか確認した
差し押さえ金額が差押禁止額の範囲内に収まっているか計算した
会社からの呼び出しや口頭指示の内容を日時とともに記録した
懲戒処分・配転命令を書面で受け取った(または要求した)
処分理由の根拠となる就業規則の条文番号を確認した
育児・介護など家庭の事情がある場合、会社に申し出た

すぐやること 3 つ

  1. 就業規則を確認する:「従業員間の金銭貸借禁止」規定の有無が、懲戒処分が有効かどうかの分かれ目です。今すぐ確認してください。
  2. 会社とのやり取りをすべて記録する:面談・口頭指示・メールなど、日時と内容をメモしましょう。後で重要な証拠になります。
  3. 専門家に相談する:都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」は無料で利用できます。一人で抱え込まず、早めに相談することが解決への近道です。

まとめ

  • 給与差押えで会社にバレても、会社は借金問題に直接介入する権限を持たない
  • 差し押さえられない給与の範囲(4分の3または33万円)は法律で守られている
  • 懲戒処分ができるのは、就業規則に禁止規定がある場合か、強要行為があった場合のみ
  • 通常の借金トラブルで解雇は行き過ぎ。雇用を継続した上での処分が原則
  • 配転命令には業務上の必要性が必要。嫌がらせ目的の配転は無効になる可能性がある
  • 不当な対応を受けたら、記録を残して社労士・労働局に相談することが大切

お金のトラブルは、職場でも生活でも精神的に追い詰められます。でも、給与は守られ、職場も続けられる権利があなたにはあります。正しい知識を持つことが、あなたと家族の安心を守る、最初の一歩です。

※本記事は執筆時点の法令・判例に基づいて作成しています。法律は改正されることがあります。最新の情報や個別のご事情については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

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