給与明細を見たとき、「これって何?」と思うような控除額に気づいたことはありませんか?
たとえば「ピークシーズン控除」と称して、
通常の欠勤控除に加え、さらに定額のペナルティを課されているケース。
そんな控除があるなんて聞いたこともないのに、知らない間に給与から引かれているとしたら、
不安になりますよね。
実は、このような控除方法は労働基準法に違反する可能性があり、
場合によっては事業主が不当な利益を得ていることもあります。
私は社会保険労務士として多くの企業の給与計算に携わり、
こうしたケースを何度も目にしてきました。
知らないまま放置してしまうと、不当に引かれたお金が戻ってこないばかりか、
同じ状況が繰り返される恐れもあります。
本記事では、おかしな「控除」の違法性や、それにどう対処すべきかを詳しく解説します。
この記事を読めば、自分の給与が適切に計算されているかを判断する知識が得られ、
不当な控除から自分を守る方法がわかります。
会社が勝手に給与を引くのはNG!その理由とは?
「働いた分の給与はしっかり受け取る」――これは、どんな仕事をしていても当たり前のこと。
でも、もし会社が「罰金だから」「ペナルティとして」と勝手に給与を引いていたら、どう思いますか?
実は、こうした行為は法律で厳しく制限されています。
労働基準法では、会社が一方的に給与から天引きすることを基本的に禁じています。
理由は明確で、労働者の生活を守るため。
働いた分の給与は、あなたの生活を支える大切なお金だからです。
もちろん、税金や社会保険料など法律に基づいた控除は別ですが、
それ以外の「罰金」や「特別なルール」による控除は、きちんと確認する必要があります。
会社がやっていることが本当に合法なのか、一度見直してみませんか?
給与はこう支払われるべき!知っておきたい賃金支払いの5つのルール
労働基準法では、会社が給与を支払う際に守るべき「5つの基本ルール」が定められています。
あなたの給与が正しく支払われているか、ぜひ一緒にチェックしてみましょう!
- 通貨で支払う
原則として現金で支払うのが基本。ただし、銀行振込は労働者の同意があればOKです。 - 全額を支払う
税金や社会保険料など法律で定められた控除以外は、給与から引かれることはありません! - 労働者に直接支払う
代理人や家族を通じてではなく、あなた本人に直接支払われるのが原則です。 - 毎月1回以上支払う
給与は1ヶ月分をまとめて支払うのが基本。それ以下の頻度だと法律違反になる可能性があります。 - 一定の期日を定めて支払う
「毎月25日払い」のように、支払日をしっかり明示しておく必要があります。
今回のケース:全額払いの原則違反
今回の問題では、特に 「全額を支払う」 というルールが守られていないことが焦点です。
働いた分の給与が本来の金額から不当に引かれている場合、
これは 労働基準法第24条 に違反する行為です。
違反が認められると、会社には罰則が科される可能性があります。
例外的に控除が認められるケース
「給与から引かれるお金」は、基本的に法律で制限されていますが、以下の例外が認められています。
- 法令に基づく控除
・税金(所得税や住民税)
・社会保険料(健康保険、厚生年金など) - 労使協定に基づく控除
・労働組合費や寮費など、会社と労働者が合意した場合。
・この場合、書面による労使協定 が必要です。
給与明細を見たとき、「これ、なんで引かれてるの?」と疑問に思うことがあれば、
まずはこのルールと照らし合わせてみてください。
不当な控除がないかどうか、一度確認してみましょう!
ノーワーク・ノーペイの原則とは?
「全額払いの原則」と聞いて、「遅刻や欠勤をしたら給与から引かれるのは違法なの?」と疑問に思ったことはありませんか?
この点について、結論を先にお伝えすると、 遅刻や欠勤分の給与が控除されることは法律的に問題ありません。
働いた分だけの報酬が支払われる仕組み
給与は、労働者が実際に働いたことへの対価として支払われるものです。
このため、 働いていない時間分の給与請求権はそもそも発生していません。
この考え方を 「ノーワーク・ノーペイの原則」 といいます。
たとえば、欠勤や遅刻によって働いていない時間がある場合、
その分の給与が支払われないのは 法律的に問題ない ということです。
欠勤控除の仕組みを知ろう
月給制の労働者の場合、「基本給」が給与明細に通常通り記載され、
その中から欠勤分が「欠勤控除」として差し引かれる形になるのが一般的です。
しかし、ここで押さえておきたいポイントがあります。
この場合の「欠勤控除」とは、もともと請求権のない部分を差し引いているだけ ということ。
これは、「控除」と呼ばれてはいますが、正確には最初から会社には支払い義務がない部分に該当します。
違法になるケース
注意が必要なのは、 欠勤控除を超える金額を別途控除することは認められない 点です。
たとえば、欠勤控除に加えて「罰金」や「ペナルティ」という名目でさらにお金を差し引く行為は、
たとえ1円でも 違法 です。
なので、今回取り上げているようなケースでは、明らかに労働基準法に違反しています。
就業規則や労働契約書に規定があった場合は?
「ピークシーズン控除」等が就業規則や労働契約書に書かれている場合でも、
それが 罰金や制裁金 のような性質を持つ場合、大きな問題になる可能性があります。
「賠償額の予定」に該当した場合は、 労働基準法第16条 に違反するからです。
労働基準法第16条とは?
労働基準法第16条には次のように規定されています。
(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
これは、 会社が労働者に対して罰金的なペナルティを課すことを防ぐための規定 です。
つまり、労働者のミスや欠勤が原因で会社に損害が生じても、 賠償額をあらかじめ定めることは許されない ということです。
労働基準法第16条 は、労働者保護の観点から非常に厳格に運用されています。
実際に使用者が金銭の取立てをしていなくても、契約書や就業規則にその旨が書かれているだけで、
労働基準法に違反する可能性 があるのです。
「ピークシーズン控除」という定額の控除は、この条文に違反している可能性があります。
会社の「損害額控除」主張は合法?徹底反論とその問題点
会社側の主張:損害額を控除しているだけ
会社は、繁忙期の欠勤に対して「損害額を控除しているだけだ」と主張することがあります。
具体的には、次のような理由を挙げる可能性があります。
- 「欠勤により業務に支障が出た」
- 「代替要員を手配するためのコストがかかった」
確かに、労働基準法第16条(賠償予定の禁止) は、実際に発生した損害を賠償すること自体を禁止しているわけではありません。そのため、企業が実際に発生した損害に対して、個別具体的に賠償を求めることは理論上は可能です。
労使協定がある場合の問題点
さらに、上記で説明したように労使協定に「損害賠償額を控除できる」と定めている場合、
控除が合法的であると主張することも考えられます。
しかし、単に労使協定が存在し、就業規則にその旨が記載されているからといって、
それが自動的に合法とは限りません。
労働者の反証1:損害額の定額設定は不合理
損害額が定額で設定されている場合、その設定自体が不合理である可能性が高いです。
損害額は、欠勤やミスの内容や状況によって異なるべきで、
あらかじめ定められた金額を一律に差し引くことは、労働基準法第16条(賠償予定の禁止) に反するからです。
例えば、定額5000円を控除する場合、実際の損害が5000円より少ない場合、
その差額は不当に高い金額を控除していることになります。
このような一律の金額設定は、損害賠償というよりも、実質的に罰金として扱われる可能性が高いです。
労働者の反証2:控除できる損害額は全額ではなく一部に限られる
たとえ欠勤が原因で会社に損害が発生した場合でも、
控除できる損害額は全額ではなく、通常は損害額の一部に限られるとされています。
多くの裁判例では、損害額の4分の1程度が控除の基準とされています。
したがって、損害額全額を控除することは、基本的に認められません。
結論:会社の主張は通らない可能性が高い
会社が「損害額を控除しているだけ」と言ってきた場合でも、次の理由からその主張は通らない可能性が高いです。
- 定額控除は不合理で、労働基準法に違反する可能性が高い。
- 控除額が損害額全額である場合、それは認められない。
会社の反論が成立しない場合、従業員としては正当な権利を守るために適切な対応を取る必要があります。
解決策と対応手順
もし、労働基準法違反が疑われる場合、早めに適切な対応を取ることが大切です。
ここでは、具体的な対応手順を紹介します。
まずは会社に問い合わせる
まず最初にやるべきことは、冷静に会社に問い合わせてみることです。
直接的な違反でなく、誤解や手続きのミスという可能性もありますから、
まずは落ち着いて話し合いをしてみましょう。
確認すべきポイント
- 控除の根拠として、会社が提示している就業規則や労使協定の内容
- 実際に差し引かれた金額と、その理由についての説明
労働基準監督署への相談
監督署の役割
労働基準監督署は、労働基準法違反を取り締まる専門機関です。
もし会社との話し合いがうまくいかない場合、監督署に相談することで、問題解決に向けた新たな一歩を踏み出せるかもしれません。
相談時のポイント
- 具体的な事実関係を整理して、わかりやすく伝えることが大事です。(何が、いつ、どんなふうに起こったか)
- 給与明細や記録を準備して、問題の説明を明確にすること
証拠の保存
給与明細や記録を保管する
控除額やその理由が記載された給与明細や、会社とのやり取りを記録したメールやメモなどをしっかり保存しておきましょう。これらは、監督署への相談や裁判で役立つ大事な証拠になります。
賃金請求権の時効は3年
未払い賃金の請求権は3年間で消滅します。その後は裁判所に訴えても会社に負けてしまいます。
そのため、問題が発覚したら、できるだけ早く対応を始めることがとても大切です。
懲戒処分の「減給」との違いは?
働いた給料から一部控除することが認められる場合があります。それが懲戒処分としての「減給」です。
この場合は、「減給」という懲戒処分が適正に行われているのであれば、その控除は合法となります。
この「減給」については、別の記事で詳しく解説しています。
まとめ
今回は、給料からの不当な控除が疑われる場合の対応方法について詳しく解説しました。
会社が給与から控除する際には、労働基準法に基づくルールがあり、
特に「全額払いの原則」や「ノーワーク・ノーペイの原則」に違反している場合、違法となります。
特に注意が必要なのは、ペナルティとしての控除や、損害額を過剰に控除する行為です。
もし控除が不当だと感じた場合、まずは会社と冷静に話し合い、状況を確認しましょう。
それでも解決しない場合は、労働基準監督署に相談し、証拠を保管することが重要です。
また、賃金請求権には時効があるため、早急に対応することが求められます。
- 会社に問い合わせる:まずは冷静に問題を確認し、話し合いを試みましょう。
- 労働基準監督署に相談する:解決が難しい場合、監督署に助けを求めることができます。
- 証拠を保存する:給与明細ややり取りの記録をきちんと保管しておくことが、今後の対応に役立ちます。
もしあなたが不当な控除に直面している場合は、ためらわずに行動を起こしましょう。
自分の権利を守るために、まずは冷静に状況を確認し、必要な手続きを進めてください。