「ただ親切にしただけなのに、なぜ…?」
職場の飲み会や懇親会は親睦を深める場ですが、そこから 「思い込み型セクハラ」 に発展するケースがあります。
たとえば、 上司が「相手も好意を持っている」と勘違いし、体を触る、執拗に誘う などの行為をするケース。被害者は「自分の対応が誤解を招いたのか」と悩みがちですが、 あなたは悪くありません。
実際、ある女性社員は 飲み会後のタクシー内で専務に襲われ、その後外出も困難になり退職を余儀なくされました。しかし、裁判では加害者だけでなく、 会社も連帯責任を負う判決 が出ています。
セクハラが原因で働けなくなった場合、労災申請や損害賠償請求が可能 です。さらに 精神的ダメージによる休職中の解雇は無効 になります。
この記事では、
✅ 職場の飲み会とセクハラのリスク
✅ 思い込み型セクハラの特徴と対処法
✅ セクハラによるメンタル不調と労災申請の可能性
について、社労士が詳しく解説します。
「あなたは悪くない」 ーー まずはこの記事を読んで、 今できる対策を知ってください。
【あなたは悪くない】思い込み型セクハラの落とし穴
セクハラの被害に遭うと、「自分にも非があったのでは?」と悩んでしまう方が少なくありません。特に、加害者が「相手も好意を持っていた」と思い込むタイプのセクハラでは、被害者が自責の念を抱きやすくなります。
今回の事例でも、被害者の女性は 上司の介抱をしただけ でした。しかし、加害者はこれを「自分に気がある」と勘違いし、タクシー内で襲いかかりました。
💡 でも、あなたは悪くありません。
職場では、上司に対して愛想よく振る舞ったり、気を遣ったりすることは珍しくありません。それは仕事を円滑に進めるための行動であり、決して「好意がある」サインではないのです。
もし今、「私の対応が誤解を招いたのでは?」と悩んでいるなら、その必要はありません。 悪いのはセクハラをした相手 です。
📌 セクハラは被害者の態度に関係なく、行為そのものが問題 になります。
まずは「自分が悪かったのかも」と思う気持ちを手放してください。そして、適切な対応を考えることが大切です。
【実際に起きた裁判例】タクシー内での思い込み型セクハラ
今回の事件は、東京地裁(平成15年6月6日判決)で争われた事例です。職場の懇親会の延長で起きたセクハラが問題となり、 加害者だけでなく会社も連帯責任を負う ことになりました。
事件の概要
ある企業の 専務取締役(加害者) は、女性社員(被害者)を含むチームメンバーと懇親会を開催。終電を逃したため、会社のタクシーを手配しました。
その際、専務は 「V(被害者)を送っていく」 と言い、Vと同じタクシーに乗車。その車内で 執拗にキスを迫り、性的な行為を迫る発言 をしました。
会社の対応と裁判の結果
Vは恐怖のあまり、翌日から出勤できなくなりました。上司に相談するも、 会社は「個人的な問題」として処理し、適切な対応を取らなかった ため、Vは最終的に退職へ追い込まれました。
裁判では、加害者の専務だけでなく、会社の 使用者責任(民法715条) も認められ、 約290万円(慰謝料150万円+退職後の逸失利益120万円) の支払いが命じられました。
事例のポイント
✅ 「思い込み型セクハラ」 … 介抱などの行為を「好意」と勘違いし、暴走するケース
✅ 会社の責任も問われる … 適切な対応を怠ると、企業も連帯責任を負う
✅ 退職後の賃金補償も認められる … セクハラが原因で仕事を辞めた場合、逸失利益を請求できる
この事例は、 職場の飲み会やタクシー同乗のリスクを改めて考えるきっかけ となります。
【職場の飲み会は要注意】セクハラが起こりやすい理由とは?
職場の飲み会は、業務の延長として行われることが多く、チームの親睦を深める場として推奨されるケースもあります。しかし、その 「仕事の一環」という空気感が、セクハラのリスクを高める要因 になっていることをご存じでしょうか?
・ 上下関係が影響する … 目上の人からの誘いを断りづらい
・ 酒の力で理性がゆるむ … 普段は抑えている言動が出やすい
・ 「お店の中だから大丈夫」という油断 … 人目があってもセクハラが行われる
これらの要因から、いまだに飲み会でセクハラが起こりやすいという状況は変わりありません。
今回の事例でも、 専務取締役が酔った勢いで「相手も自分に好意を持っている」と勘違い し、タクシー内で被害者に強引な行為をしました。
「思い込み型セクハラ」の怖さ
このケースのように、 加害者本人が悪気なく「相手も好意を持っている」と勘違いする ことがあります。
- 「自分に優しくしてくれた=好意がある」と思い込む
- 酔いが回ると、相手の気持ちを無視して行動しやすくなる
- 被害者側が「自分が勘違いさせる態度を取ったのでは…」と自責の念を抱くことも
しかし、 被害者が親切に接したからといって、それが恋愛感情を示すわけではありません。
セクハラは、 相手の真意に基づかない性的な言動 であり、加害者側の思い込みは一切関係ないのです。
飲み会でのセクハラを防ぐために
✅ 上司や異性と2人きりのタクシーには乗らない
✅ 飲み会の後は、複数人で帰るようにする
✅ 万が一のためにタクシー会社や社内レコーダーの情報を確認
このような 「思い込み型セクハラ」 は、本人に悪意がない分、周囲も軽視しがちです。しかし、 被害者の精神的苦痛は決して小さくありません。
【セクハラによる心のダメージ】労災認定と補償について
セクハラは、 被害者の心に深刻なダメージを与える ことがあります。
今回の事例でも、被害女性は 男性のスーツ姿を見るだけで恐怖を感じ、外出も困難になりました。
このように 精神的ストレスが原因で、うつ病や適応障害などを発症した場合、労災認定される可能性があります。
セクハラによる精神疾患は労災の対象
厚生労働省の基準では、次のようなケースが認められれば、労災として補償を受けられます。
- 職場のセクハラやパワハラが原因で強い精神的ストレスを受けた
- ストレスによって「うつ病」や「適応障害」などの診断を受けた
- 業務に支障をきたし、医師の治療を必要とした
セクハラ被害後に 出勤が難しくなった場合は、労災申請を検討する価値があります。
労災認定されると受けられる補償
- 治療費が全額補償される(自己負担なし)
- 休業期間中、給料の約8割が支給される
- 症状が重く後遺症が残った場合、障害補償を受けられる
つまり、 セクハラのせいで仕事ができなくなっても、労災が認められれば生活の保障を受けられます。
労災認定されると解雇は無効になる
さらに、 労災認定を受けた場合、会社は簡単に解雇できません。
- 労災による休業期間中は、解雇が法律で禁止されている
- 労災認定後に解雇された場合、無効となる可能性が高い
今回の事例では、会社が被害女性に 「休職か退職かを選べ」 と迫りましたが、労災が認められていれば、退職を強要することはできなかった可能性があります。
セクハラの影響で心身に異変を感じたら、早めに医師に相談し、診断書をもらうことが大切です。
【会社の対応次第で責任が発生】セクハラ対応の重要性
今回のケースでは、加害者であるD専務だけでなく、 会社も連帯して賠償責任を負うことになりました。
会社は、「セクハラは個人間の問題」と判断し、 適切な調査や対策を行わなかった ため、
結果的に 使用者責任(民法715条)を問われ、290万円の賠償を命じられました。
企業が責任を負うのはどんなとき?
会社が次のような対応を怠ると、 セクハラ問題の責任を問われる可能性があります。
✅ 被害者からの相談を無視する
✅ 事実確認をせず、加害者を処分しない
✅ 被害者に退職を迫る、不利益な扱いをする
企業には、 セクハラを防止し、問題が起きた場合に適切に対応する義務 があります。
対応を誤ると、企業も法的責任を問われ、損害賠償を命じられるリスクがあるのです。
つまり、会社の対応次第で、被害者が救われるか、さらに傷つくかが決まるのです。
このような不誠実な対応に遭遇した場合は、 社外の相談機関に助けを求めることも一つの方法です。
【セクハラに遭ったら】あなたを守るためにできること
もし、あなたや身近な人がセクハラの被害に遭ったら、 次の行動を検討してください。
- 証拠を残す(LINEやメール、録音、日記など)
- 社内の相談窓口に相談する(ハラスメント窓口や人事部)
- 外部の機関に相談する(労働局、労働基準監督署、弁護士、社労士)
- 必要に応じて労災申請を検討する(精神的ダメージが大きい場合)
- 転職を視野に入れる(心身の安全を最優先に)
特に セクハラが原因で精神疾患を発症した場合、労災認定を受けられる可能性があります。
労災が認められれば、治療費や休業補償が支給され、さらに 業務上の災害と認められた場合、解雇も無効になります。
セクハラはあなたの責任ではありません。
相手の思い込みや会社の対応の不備によって、 あなたが苦しむ必要はないのです。
「自分が悪いのかも…」と思わずに、必ず誰かに相談してください。
あなたには 自分を守る権利がある ことを忘れないでください。